ソニーが九日に発表した二〇一三年三月期連結決算は、
純損益(税金などを差し引いた後の最終的な利益や損失)が四百三十億円の黒字だった。
一二年三月期は四千五百六十六億円の赤字で、純損益の黒字化は五期ぶり。
円安の効果で売り上げが増えたことに加え、生命保険など金融事業の株式運用益、自社ビルや保有株式を売却した利益が黒字転換の主因になった。
売上高は前期比4・7%増の六兆八千八億円。本業のもうけを示す営業損益は、
前期の六百七十二億円の赤字から二千三百一億円の黒字に転換した。
子会社のソニー生命など金融事業で資金の運用益が昨年末からの株高で大幅に改善した。
ニューヨークの米国本社ビルやJR大崎駅前のソニーシティ大崎(東京都品川区)を売却した利益や、子会社株式などの売却益も業績回復に貢献した。
一方、主力のエレクトロニクス事業は、ゲームやパソコンなどの販売不振が響き、
千三百四十四億円の営業赤字。ソニーが公約にしていた一三年三月期の黒字化は達成できなかった。
テレビ事業は前期より持ち直したが、それでも約七百億円の赤字だった。
東京の本社で会見した加藤優最高財務責任者(CFO)は一四年三月期について「資産売却ではなく、エレクトロニクス事業で収益を上げる」と強調。
連結決算は、テレビ事業の黒字化やスマートフォン(多機能携帯電話)の販売増を見込んで売上高を前期比10・3%増の七兆五千億円、
純利益は16・2%増の五百億円と想定した。営業利益は、ほぼ横ばいの二千三百億円の見通しとした。
五年ぶりに純損益の黒字を達成したソニーだが、社員に満足感はない。ウォークマンやプレイステーションなど、
かつて世界的なヒットを次々と飛ばしたエレクトロニクス事業は営業赤字を抜け出せず、金融事業や不動産売却などのリストラが業績回復に導いたからだ。
学生の就職人気ランキング上位が常連だった時代を知る社員は「うちは電機メーカーか、それとも金融業者なのか」と嘆いている。
二〇一三年三月期連結決算の営業利益の内訳をみると、子会社のソニー生命など金融事業が前期比一割増の千四百五十八億円。
一方、売り上げ全体の七割を占めるエレクトロニクス事業は、携帯電話やタブレット端末などのモバイルやテレビが軒並み赤字を計上し、ゲーム事業も減益だった。
九日の決算発表会見で、加藤優最高財務責任者は、
ソニー製のスマートフォンや液晶テレビの販売が最近、回復し始めていることに「胸を張れる状況ではないが、手応えを感じている」と述べ、
ソニーが本業の力を完全に失っていないことを強調した。
エレクトロニクス事業の赤字の責任をとって、平井一夫社長を筆頭に関連部門の役員給与の全額返金を決めるなど、本業再生への覚悟も見せた。
ただ、ウォークマンなどで世界を席巻した「ソニーブランド」は、今や米アップルや韓国サムスン電子の躍進の陰に埋もれ、
「かつての存在感が薄れてしまった」(ソニー関係者)。ヒット商品の姿はまだ見えない。
ある社員は「何をやっているのか、何をやりたい会社なのか分からない。ソニー製品で今、欲しいものありますか」と自嘲気味につぶやいていた。 (神野光伸)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013051002000138.html